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月下美人 - epiphyllum - oxpetalum - since 2008/03/04

徒然のんべんだらり、気の向くまま萌の赴くまま。
今のところ、遙かなる時空の中でシリーズ中心。
微妙にガンダム00が進出中。
BlogPetがクリックすると変なお返事してくれます。(笑)

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【 遙か 創作 】 乱れ咲く夜。

創作の小話です。
BL要素のあるものなのでお嫌いな方は、閲覧をご遠慮くださいますよう、お願い致します。

遙かなる時空の中で、友雅×鷹通です。
全年齢対象だとは思いますが・・・。
(BLの時点で全年齢対象・一般向けではないような気がしないでもないですが)




【 乱れ咲く夜 】



竜田姫よ、私の心を知っているかい?








「藤姫、失礼するよ。鷹通が傷を負ったと聞いたのだが」

「まぁ、橘少将殿」

帝の御前を辞して土御門邸に来る頃には、丸みを帯び始めた月が中天に差し掛かろうという頃だった。
そんな刻限に尋ねれば、姫の叱咤を浴びるかとも思ったが、存外姫は快く私を迎え入れてくれた。

「友雅殿も日中の騒ぎはご存知ですわね」

「あぁ、朱雀が暴れた騒ぎだろう?」

心苦しげに瞳を伏せ、小さな星姫は硬く手を結んでいた。
小さな肩に、重い宿命を負った少女が、その重荷に潰されてしまいそうで。

「その時、鷹通が鬼に傷を負わされたと遣いに聞いてね。少し見舞おうと思ってね」

「ええ・・・。鷹通殿も友雅殿に見舞われれば、きっと喜ばれますわ」

「さぁ、どうだろうね。余計な世話だと怒鳴られるかもしれないよ?」

「まぁ、友雅殿」

明るい声で話題を戻しおどけてみると、小さな姫は果敢なげに苦笑した。
二、三言葉を交わし、翳りがちだった表情が和らぐのを見届けてから、鷹通の休む対屋に足を向けた。

「昼間、発熱しておいででしたから、もうお休みになってらっしゃるかもしれませんが」

「構わないよ。休んでいるなら顔を見てすぐに帰るから」

「では私はここで」

「あぁ、ありがとう」

渡殿の途中、案内の女房と別れた。
もし休んでいるのを起こしてはという彼女なりの気遣いのようだ。
その気遣いが無駄にならぬよう、なるべく足音を忍ばせて母屋に入る。
そっと御簾を上げて中を覗けば、果たして鷹通は静かな寝息を立てていた。
暗い部屋の中ではその表情は伺い知れなかったが、上下する胸元は規則正しく動いている。
そのことにこっそりと安心しながら、ふと、その顔を覗き見たくなって先ほどよりもさらに慎重に歩を進め、その枕元に膝を突いた。
きしり、と小さく床板がきしむ。
ごく小さな音だったが、床の主はそれに気づき、とっさに身を起こそうとした。
・・・が、それは傷ついた利き手を軸にしたせいで果たせなかった。
肩に走った痛みに肘が崩れ、次いで起きかけた半身がまた床に吸い寄せられる。
そのままでは傷を床にぶつけてしまうと思い、背に手を入れ支えてやると。

「誰だっ」

慌てたようなきつい叱声が私の耳を叩いた。

「・・・折角、手を貸してやったというのに治部少丞殿はそんな私を切るおつもりか?」

「・・・とも、まさどの・・・?」

咄嗟に遠心力で鞘を飛ばした小太刀を私ののど元に突きつけた鷹通にそう問いかけると。
ほっとしたように強張った体から力が抜けた。

「明かりも持たず来るなど、賊と間違えられても仕方ないでしょう」

「おや、休んでいるのではないかと私なりに気を遣ったのだがね。そう目くじらを立てないでおくれ?」

「・・・失礼。私は目が悪いもので。眼鏡がないと目を眇める癖が」

「あぁ、鬼に砕かれたんだったね。暫く不便が続きそうだ」

よく見ると、水差しや包帯などと一緒にヒビの入った眼鏡が薄ぼんやりとした月光をはじいていた。
目が良く見えないというのは、目のいい私にはどういった状況なのか計り知れないが。
見えないものを見出そうとするように、普段穏やかな瞳は今は睨むようなそれになっている。

「不便というほどでもありませんよ。まったく見えないわけではありませんし・・・っ!」

いつもの癖か、今はない眼鏡を押し上げるしぐさをしようとして、鷹通は声を詰まらせた。
見れば、先ほど急に動かした腕の傷が開いたのだろう。
白い夜着にうっすらと紅い染みが滲んでいる。

「ああ、ほら。無理に動かすから傷口が開いてしまっただろう。無理は良くないよ」

太刀を握ったまま肩に添えられた左手から、その太刀を奪う。
夜目にも鮮やかな深紅が白い布地にじわりと滲む。

「どれ、見せてご覧」

「結構です。自分でできますから」

傍らの包帯を手にとってそう告げると、鷹通は逃げるように身を引いた。
その間にも深紅の染みはゆっくりと侵すように白い布地を染め上げていく。
その様はある種の模様のようにも見て取れて、艶かしささえも感じるが。

「私は女性ではないのだから遠慮することはないよ。それに私は人々の中では血なまぐさい世界で生きている人間だよ。気を遣うことはない」

「いえ、そうではなく・・・」

「その上、利き腕の肩の手当ては自分ではできまい?」

「では、お願いします」

諦めたように小さく嘆息して、鷹通は私のほうに腕を差し出した。
袷を開き、袖を落として肩を顕わにする。
そこにはじっとりと血を吸い取った包帯が肩から手首にかけて幾重にも巻かれていた。
その包帯を外し、傷を清めて新しい包帯を巻く。
傷を清める間、鷹通は硬く目を閉じ、唇を噛んでいた。
きっと、苦痛をもらすまいとしていたのだろう。
そんな姿に、私の前でくらい、片意地を張るようなことをしなくてもいいのにと、少し呆れた。

「さぁ、終わったよ。しかし・・・、随分と酷くやられたものだね」

「ありがとうございます。不意とはいえ、本当に情けないことです」

「君は文官なのだから仕方がないだろう?」

「それでも、女性に心配をかけるようなことをしました」

「神子殿や藤姫のことかい?」

「ええ」

心底申し訳なさそうに鷹通は顔をゆがめて、膝に置いた手を睨んでいた。

「心配しているのは私も同じなのだが、私に対してはそうは思ってくれないのかい?」

「は?」

虚を突かれたような顔で私の顔を見つめる鷹通がおかしくて、つい笑い出してしまう。
それにからかわれていると思ったのだろう、鷹通の目が剣呑な光を宿す。

「友雅殿」

呼ぶ声にも険がこもる。

「いや、すまない。君の顔が可愛らしくてね」

「・・・」

完全に怒らせてしまったようだ。
こちらを見る鷹通の瞳から剣呑さは消えたが、その分、温度を下げた冷ややかな視線がこちらを射抜くように見据えている。

「そう怒らないでおくれ。心配したのは本当だ」

「からかうのならば、お帰りください。もう夜更けでしょう」

「おや、私の竜田姫はつれないねぇ」

「竜田姫?」

訝しげに顰められた柳眉に笑みを返す。
結わずに後ろに垂らした髪を一房手に取り、前に流す。
私のその仕種に、さらに眉根を寄せて見上げる鷹通に、答えを渡してやる。

「紅い衣に流れる黒髪。紅葉の衣の竜田姫のようだろう?」

「茶化さないでください」

「茶化してなど、いないよ」

不機嫌に吐き捨てた鷹通にまた笑いがこみ上げてくるが。
これ以上、彼の機嫌を損ねては本当に今度こそ太刀にかけられそうな気がしてこらえる。

「まぁ、思ったより元気そうで安心したよ。では、私は帰ることとしよう。竜田姫の怒りを買うのは得策ではないからね」

「友雅殿っ」

一度、頬を撫でて、立ち上がる。
咎めるような声が背にかかったが、振り返らず母屋を出ようとすると。

「・・・ご心配、痛み入ります」

小さな声が、ポツリとそう告げた。
その、彼らしい真面目な謝礼の言葉が心に落ちて。
安心だけでなく、何かあたたかなものを私の中に落としていった。








鷹通には告げなかった。
いや、鷹通にだけではなく、誰にも告げられない。
彼を傷つけた鬼を、本当は殺してやりたいほど憎んだということは。
私がどれほど、彼の姿を見るまで心砕いていたか。
彼は張り詰めた弦のような人だから。
どこまでも役目に真面目で、一本気で。
無理をしても、そうと人に知れないように綺麗に包み隠してしまう。
真っ白な雪の中、美しいまま落ちてしまう椿のように。
彼も散ってしまうのではないかと、心が締め付けられた。
こんな気持ちを私は知らない。
ずっと、必要ないと、知ろうともしなかった感情の波。
それが彼によって細波のように、時に津波のように押し寄せる。
荒れる海のように、時に私を飲み込むそれに、今は身を任せる。
たゆたう浮き草のごとく、波にすべてを委ねるのもまた一興。
しかし・・・

「私の竜田姫は、そんな私の心など知りはしないのだね」

またそれも一興、か・・・。 



END

 
2005.02.23.掲載分



***** あとがき。*****************************************
 
これは完全にネタ。こんな会話してたら萌えだなと勝手に妄想したシロモノ。
ネタだけに会話しか使ってないですしね。もう、読む人に井上さんと中原さんのアテレコしていただこうかと思って。なので、あえて会話途中の彼らの感情変化等は書き加えませんでした。
個人的には、ラストで鷹通さんが静か~に激怒して、一人で嵯峨野に行っちゃったって考えてます。なので翌々日、神子殿に鷹通さんの事を聞かれて、それに思い当たった友雅さんは急いで彼の後を追った、と。
妄想もここまでいったらたいしたもんだと、自分で思います。まぁ、人格疑われるのは解りきってますがね・・・。
 
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